子育て実験中

忙しくて大学休学中の長男、勉強好きすぎて高専2年2回目を中退してゲーム三昧の次男、参考にならない兄2人を見てモヤモヤの高1女子、3人の個性を活かした分野を模索、どの育て方が未来を切り開くか?実験中!

残酷で楽しい

かーちゃんの2年半の学生生活はひとまず終了した。建築士2級の2次試験、製図…これがどんなに残酷な試験か、かーちゃんは受けるまでその事実を知らなかった。

試験は11時から16時までの5時間。建築士1級製図試験は6時間半なので、それに比べれば可愛いのだが。

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会場には1時間前から入れ、席に着くと各自自前の製図盤と製図の為の定規、シャーペン、答案用紙を製図盤に留めるテープ、電卓などを自分なりのグッツを定位置に並べる。そして答案用紙を製図盤にした留めるテープを4枚適当な長さに切って準備をしておく人がほとんどだ。

それから次にする事は食事。一般的なお昼時間を挟む時間帯の試験。ご飯を食べながら飲みながらやってもイイのだが、そんな時間はない。だから試験前の緊張で胃が痛くても、とりあえずおにぎりを食べた。周りも菓子パンなど食べやすいものや甘いものを食べている人もいた。糖分は重要。5時間、手と頭を動かし続けるための燃料を入れておかないと戦えない。

あとは時間まで製図の一般的なプランのパターンを見ている人や最後にお決まりの製図を描きながら時間を使っている人もいた。

試験中トイレには行けるのだが、かーちゃんは始まる前に2度トイレに行った。試験中トイレに使う時間があるかわからない、5時間座りっぱなしになる可能性があるからだ。

1人席だったかーちゃんはラッキーだった。後から聞いたのだが友達は2人席で自分以外の人が消しゴムで製図を消すと机が揺れて大変だったようで、何度も消したかーちゃんと机が一緒の人がいたら大迷惑だったと思う。

試験が終わった後、試験会場近くの居酒屋の17時からのオープンを入り口前で待ち、専門学校の友達と早い夕飯に行った。そこでの反省会はみんなをどんよりさせていく。「あ、それ描くの忘れた!」「あそこってそういう意味だったの!」「それでよかったんだ〜変更しちゃったよ」話せば話すほど遠のいて行く合格…そんな事はもっと早い時間に結果はわかっていたのだが、こんな残酷な試験は受けた事がない。

今年の試験形式では木造2階建てのプランを5つ製図で建築物を描く…1階平面図、2階平面図、1階の天井と2階の床の間の木材の状態を描く伏せ図、立面図、立面をある部分で切断した断面の矩計図の5つ、それと描いた建築面積の計算とプランの特徴を文書で説明する。これが全て求められ、減点法で採点される。

試験は5時間…基本的な時間配分がある。

始めの1時間から1時間半くらいで問題文を読み、製図プランを考える。矩計図以外で2時間、矩計図に1時間、見直し30分。

予備校での練習では時間がかかってしまった製図プランが試験が始まってなんと15分で終わってしまった。プランの見直しもしたが「か、簡単すぎる!絶対何かを見落としている」と疑いつつも製図に取りかからなければならなかった。1階平面図、2階平面図、矩計図と1時間半かけて描き進めた後に「あ!そういうことか!」と見落としを見つけ、と同時に「え?今から?プランし直し書き直す時間はない。どうする!?」焦りから震えがきた。頭も働かない。このまま描き進めるか?直すか?

この試験は1年に1度。2年専門学校に通い受験資格を得て、専門学校を卒業する4ヶ月前から並行して予備校にも通い、普通の主婦が時間もお金もかけてきた。学費は全てかーちゃんのバイト代から出したが、普通なら子どもの学費のために使うだろうがかーちゃんは自分に投資した。専門学校は夜間、予備校も仕事をしている人対象だったので、家族の協力は不可欠。夕飯は作っておける時もあったが9-19時までの予備校に通うようになってからは勝手に食べてもらっていた。

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普段Apple Watchを使っているかーちゃんだが、試験中通信のできる時計は不正防止のため使えない。太郎からG-shock、花子から通学に使っている腕時計を借りてきたかーちゃんは製図盤の横に並べて置いていた。プランの見落としに気がついて焦ったかーちゃんはこの2つの腕時計を見て「なにくそ!この2年半とかかったお金と時間、家族の協力を思い出せ!最後まで諦めるな!プランを変更して書き直せ。年に1度しか試験はないんだぞ!」と気持ちを奮い立たせた。(ちなみに次郎は物を無くす天才、時計も無くしてるので借りれなかった) プランは問題用紙の右半分の方眼用紙に描き整理して考えるのが一般的だが、かーちゃんはそこまで戻る時間ない…一か八かだが直接回答用紙に変更して行くしかない。かなり無謀だ。焦りながらも今まで1時間半かかって描いた製図を震えながら消した…もう戻れない。と思うと同時に描き終わらせるかわからない恐怖がどっと押し寄せてきた。

採点は減点法でも未完成な製図や設計説明文書や建築面積の計算欄が1つでも白紙部分があれば採点さえしてくれない。その時点で不合格は確定となる。予備校の模試で5時間でも足りないのに3時間で仕上げたことなどない。残り時間3時間…かーちゃんは半分壊れて笑いながらひたすら描き直し始めた。だってこんな残酷な試験はないじゃない?描き終わらない、投げ出したい、時間を巻き戻したい。未完成で採点されず不合格だと結果はわかっていても残りの3時間やり続けなければならない、何と怖い試験なのだろう…

居酒屋の答え合わせで「いちよう描きあげたんですよね?」と20歳下の舞妓の同級生に聞かれ「ギリギリね。裏技使ったよ。法的に大丈夫なので居室以外のトイレやお風呂は全て窓無くしたよ、描く手間省くためにね。」(居室は採光の量が定められているので、部屋の面積の条件以上の窓の大きさが必要となる)

正直こんなプランの家には住みたくない。でも設計条件が合っていればイイ。減点法だが、相対評価で半分しか合格しない。見た目の美しさも評価対象に大きく関わるので、消した後がくっきりわかる焦って描いた汚い回答用紙の評価は低くなるだろう。と思いながら友だちのプランを聞いていたらナント始めの15分で作ったプランの子が6人中4人いた。

深いため息しかでない、今年は簡単だったのだ…となると美しさ、丁寧さが合否の分かれ目か。

みんなそれぞれ反省点がボロボロ現れて暗くなる飲み会。「でも描いてて楽しいんだよね!」と言うとみんな笑顔でうなずいていた。「本当にきつかったよね。」「生活なかったもんね。この1年は特に。」大学や専門学校在籍中には受験資格が得られない。学校をでてなくても建築関係の仕事7年やっていたら受験資格は得られるが、仕事と受験の両立は難しい。みんな仕事をしながらの受験。かーちゃんの様に趣味の延長の様な受験とは違う。本当にみんなすごい!尊敬する。

さあ、この“残酷で楽しい”試験、来年も受ける事になるんだろうなぁ。